最近、アメリカで「ゾンビ鹿病」とよばれる病気が話題になっています。
多くの方が不安を感じているこの病気は鹿を中心に広がっており、感染した動物は「ゾンビ」のような行動をとると報告されています。
この現象はどのようにして始まったのでしょうか?
また、私たち人間にとってのリスクは実際にあるのでしょうか?
そして、海を隔てた日本ではこの「ゾンビ鹿病」の発生は確認されているのでしょうか?
今回は「ゾンビ鹿病」とは何か、それが人間に与える影響や日本の現状についてわかりやすく解説します。
ゾンビ鹿病の概要
ゾンビ鹿病は正式には慢性消耗病(Chronic Wasting Disease, CWD)と呼ばれ、主に北米で見られる野生の鹿やエルク・ヘラジカなどの偶蹄類に感染する神経系の疾患です。
感染した動物がよろめき、嗜眠、よだれの垂れ流し、協調性の欠如、急激な体重減少、元気がなくなり、意識を喪失するなどの症状を示し、ゾンビのような行動をとることから、俗に「ゾンビ鹿病」とも呼ばれるようになりました。
感染拡大の速度と広がりには地域差があり、特にアメリカ合衆国の一部の州で顕著に広がっています。
ゾンビ鹿病の原因は?
ゾンビ鹿病は1976年に最初に確認された疾患で、主にアメリカで流行し始めたものです。
この病気はプリオンと呼ばれる異常なタンパク質によって引き起こされ、感染した動物の脳や神経組織を破壊します。
プリオンによる感染は直接的な接触だけでなく、感染した動物の死体や体液によっても広がる可能性があり、非常に治療が困難で現在は効果的な治療法やワクチンが存在しません。
感染した動物は次第に神経系の機能を失い、結果的に死に至ります。
プリオンの性質
プリオンは感染した動物の脳や体液に含まれ、これらに直接触れたり感染した土壌を介して間接的に他の動物に感染します。
プリオンは熱や消毒剤に非常に強く、環境中で長期間生存することができるため感染が広がりやすく、制御が難しい特徴を持っています。
このため一度感染が広がると、その地域の野生動物の間で疾病が広がり続ける可能性があります。
狂牛病(BSE)との比較
狂牛病、正式には牛海綿状脳症(Bovine Spongiform Encephalopathy、BSE)と呼ばれ、1980年代後半にイギリスで発生し世界中に広がった感染症です。
この病気もゾンビ鹿病と同様にプリオンという異常なタンパク質が原因で、主に牛を感染させます。
感染した牛は行動の異常や神経系の障害を示し、最終的には死に至ります。
狂牛病とゾンビ鹿病は両者ともプリオン病という共通点を持っていますが、感染する動物種が異なります。
狂牛病(BSE)とは
狂牛病は、牛が異常なプリオンタンパク質に感染することによって発症します。
この病気は、感染した牛の神経組織を含む飼料を食べたことによって広がったとされています。
感染した牛は脳の組織がスポンジ状になり、協調運動の障害、異常行動、体重減少などの症状を示し最終的には死に至ります。
狂牛病の最も恐ろしい点は、人間が感染した牛の肉を食べることで、クロイツフェルト・ヤコブ病の一形態である変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)を発症する可能性があることです。
狂牛病(BSE)拡大の経緯
狂牛病(BSE)は1986年にイギリスで最初に報告されました。
当初は牛の少数の感染例に過ぎませんでしたが、1990年代に入るとイギリス全土に急速に広がり数万頭の牛が感染しました。
狂牛病(BSE)の広がりは牛肉や牛肉製品の安全性に対する国際的な懸念を引き起こし、多くの国でイギリスからの牛肉の輸入禁止措置が取られました。
狂牛病(BSE)の感染が広がった原因は、感染した牛の脳や脊髄などを原料とした飼料が他の牛に与えられたことにあります。
この事実が明らかになった結果、日本や海外で牛の脳や脊髄などの組織を家畜の飼料に混ぜないという規制が行われ、狂牛病(BSE)の発生は大幅に減少しました。
現在、日本では2003年以降に出生した牛からは、狂牛病(BSE)は確認されていません。
この経験から、動物由来の感染症への理解が深まり、食品の安全管理に関する意識が高まりました。
ゾンビ鹿病の拡散
ゾンビ鹿病の感染が米を中心に拡大しています。
アメリカにおける現状
アメリカでは、ゾンビ鹿病が広がっています。
1967年に初めてアメリカ・コロラド州の研究施設に収容されていた個体で発見され、その後は野生の個体でも発症が相次いで確認されました。
記事作成時点では、野生の個体だとアメリカ・カナダ・ノルウェー・フィンランド・スウェーデンなどで発症が確認されているほか、韓国でも飼育下の個体で発症した例が報告されています。
日本におけるリスク
日本では現在のところゾンビ鹿病の発生は報告されていません。
しかし、アメリカや他の国での発生状況を鑑みると日本でも警戒が必要です。
特に鹿肉を食べる習慣がある地域では、感染鹿肉を食べることによる感染リスクが考えられます。
また、ゾンビ鹿病の原因となるプリオンが人間の細胞に感染して増殖することが研究で確認されています。
このような事実を踏まえ、日本でもゾンビ鹿病に対する理解と警戒が求められます。
人間への感染可能性
記事作成時点ではゾンビ鹿病が人間に感染したという事例は報告されていませんが、ゾンビ鹿病の原因となるプリオンが人間の細胞に感染して増殖することが研究で確認されています。
また、クロイツフェルト・ヤコブ病や狂牛病などその他のプリオン病は種を超えて広がることが知られており、イギリスでは1995年以降に狂牛病の流行によって178人が死亡し、数百万頭ものウシが殺処分される事態となりました。
すでに人間がゾンビ鹿病の個体を狩猟で捕まえ、食べてしまったケースは複数あると考えられています。
野生動物保護団体のAlliance for Public Wildlifeによると、2017年には7000~1万5000頭ものゾンビ鹿病になった個体が人間によって食べられたと推定されており、その数は年々増加しているとみられます。
プリオンは不活性化して環境中から除去することが難しいため、汚染された水や土壌などを介して人間に伝染する可能性も検討する必要があるとのこと。
これらの情報を踏まえ、ゾンビ鹿病に対する理解と警戒が求められます。
このような事実を踏まえ、日本でもゾンビ鹿病に対する理解と警戒が求められます。
5.まとめ
アメリカで広がるゾンビ鹿病は、鹿やエルクなどの偶蹄類に感染し、神経を破壊するプリオン病です。
症状には体重減少や協調運動能力の低下があり、現在、人間への直接感染例は報告されていませんが、狂牛病との類似性から人への感染リスクが全くないとは言えません。
アメリカでは29州以上で確認されており、感染拡大が懸念されています。
日本ではまだ発症例は確認されていませんが、韓国での報告例があるため、警戒が必要です。
鹿肉の取り扱いには注意が必要で、ゾンビ鹿病のリスクを理解し、適切な予防策をとることが推奨されます。
この病気については、継続的な監視と研究が必要とされています。